「け、捲簾、さん……なんで、今日は泊まりなんじゃ」 「……イヤ、晩飯までには帰るって言った筈だけど」 「だって悟浄が……あっ」 そこで八戒は思い至った。捲簾は帰ってこない、と悟浄に吹き込んだ人物の罠に。何の為かは知らないが自分達を弄び操っていた、その黒幕の正体に。しかし。 「……天蓬」 先に声を発したのは捲簾だった。悟浄の手を離した天蓬は、返事をせずに捲簾の元まで歩み寄る。 「お前どーゆーつもりよ? 年下を弄んで楽しいか」 「そういうつもりじゃありません」 「じゃあ何か? お前こーやって俺を怒らせて」 捲簾の手が天蓬の背中を荒く滑って尻を掴むと、態とらしく媚びた息が漏れた。 レンズ越しの瞳にうっすらと浮かぶのは、恍惚。 「ひどくされたいってか」 「ふ……いい線いってますよ」 ごく低い調子で諌める捲簾の声は、強引に誘うような響きをも含む。天蓬が肩を掴んで迫ると、しかし捲簾はその唇を手で押し返した。ぐ、と天蓬の顔が不満げに歪む。 ソファーの端に近い壁に、捲簾が天蓬を押しつける形になっている。じっと睨む捲簾の眼が、天蓬より寧ろその従弟を怯ませる。彼が怒るのは、八戒にとっては珍しかったのだ。 「奇行は今更だけどな、なんで悟浄達を巻き込んだ?」 「自覚あるでしょう。貴方って自分のことじゃ中々怒ってくれないんです。それよりね、捲簾」 溜息をつくと天蓬は、捲簾を見上げて襟元から顕になっている鎖骨をなぞった。したくて堪らないとでも言いたげにあちこちに触れ、指を滑り込ませ、これでもかとモーションをかける。呆けたように傍観していた八戒が、今度は思わず赤面してしまう程に。 「いくら忙しいったって、もう一週間もかわされてるんですけど。ソッチは溜まってないんですか? ……ちょっとまさか悟浄で性欲処」 天蓬の頭が勢いよくはたかれる。と、その衝撃のせいか否か、暫く八戒の膝にうつ伏せでぐったりしていた悟浄が、漸く気がついたように動いた。もぞもぞと怠そうにスウェットを履くと腰を擦りつつ座り直し、八戒越しに従兄達の様子を伺う。 「してるわけねーだろ。従弟とか以前にコイツは今八戒と、」 「……って、え、知ってたんですか」 「結構ブラコンですもんこの人。当然貴方達のことも察してましたよ」 「……んだよ、気付かねーフリしやがって」 そう言って悟浄は諦めたように拗ねたように、溜息をつく。八戒は悔しげに眇めた目で天蓬を一瞥した。 「やっぱり全部この人の策略だったんですか……あの、捲簾さん」 二人の言い合いに介入する機を得た八戒は、思い切って捲簾に声をかける。いつまでも修羅場に付き合わされては堪らない。 「うちの者が大変ご迷惑をおかけしました。あ、僕も思いっきり被りましたけど。えぇと、僕は悟浄お借りして自宅に帰りますから、それの処置はお任せしま……」 そのとき、徐に捲簾が屈み込んで八戒に詰め寄った。 慣れた手つきで顎を掬われ、八戒は一瞬たじろぐ。捲簾は少し頬を緩めて、どこか愉快そうに八戒に言う。 「あーあ、天蓬がアンタぐらい清楚で大人しかったらなぁ。顔のつくりだけは似てンのに」 「……捲簾、ソイツ清楚とは程遠いぞ」 覇気のない悟浄の言葉を受け、捲簾は舐め回すように八戒の顔を見る。八戒の額に冷や汗が浮かんだ。 「へー。こう見えて夜は肉食獣とか? それとも」 「っ!?」 不意打ちのキスに、三人の動きが一瞬止まった。 捲簾はあっという間に舌を突っ込んで中を辿って、力ずくで八戒の意識を絡めとる。八戒は拒もうとその肩に手を置くものの、どうにも身体が強張って動けない。焦って目を閉じれば、部屋に満ちた奇妙で猥雑な空気と舌に受ける感覚に流され、意思に反して身体がみるみるうちに熱を帯びる。嵌って、堕ちてゆく。 「ッは……」 長く糸を引いて離れる舌先を、悟浄はただ呆然と見つめていた。天蓬に至っては普段眠そうな目をここぞとばかりに剥いている。 「……娼婦だったりして?」 八戒が慌てて口元を抑えるのを、捲簾は楽しそうに見つめる。 酸素不足でくらくらする頭の中で八戒は、冷静に、冷静に、と繰り返す。歳上なだけはあった。覚えのあるハイライトの味にそぐわない、積極性と技術と余裕と。数秒の間にそれらの全てをぶつけられた心地がして「敵わない」と悟った。 そもそも油断しきっていたのだ。天蓬と渡り合える殆ど唯一の男、飼い主と渾名される彼が現れれば、天蓬の過ぎた悪ふざけもおしまいだと。悟浄に色々と言いたいことはあるが、取り敢えずは早く二人っきりになって抱き締めてやりたいと。そこまで思い至って一息ついていたのだが、どうもそうではないらしい。彼は幕を閉じる役などではなかった。二人は寧ろ、この迷惑な従兄達の痴話喧嘩にどんどん巻き込まれている。 捲簾はわなわなと震えている天蓬の方を振り向くと、挑発するように舌を出した。 「貴方ッ……」 余裕を失った天蓬の声には耳を貸さず、捲簾の指と唇が抗う首元を侵す。 「や、ちょっ……と、捲簾さんっ……!」 「捲簾!」 悟浄が奪い取るように、八戒の肩を後ろから引いて抱き寄せた。初めて捲簾と悟浄の目線が一瞬合うものの、悟浄の意識はすぐ腕の中の八戒に移る。 八戒は顔を赤らめつつ困ったように眉根を寄せていて、濡れて光る唇から乱れた息を零す。中々見られないそんな表情に悟浄は不覚にも色々と掻き立てられてしまう。 「……ちょっと悟浄、あたってる」 「え、」 「何こんな状況でサカってんですか、もっ……さっき派手にイったくせに」 「イヤ寧ろこんな状況だからじゃね!?」 「ごーじょぉ」 二人の会話に、悪戯っぽい捲簾の声が割り込んだ。捲簾は回り込んで悟浄の右側に腰掛けると、追ってソファの端から縋りついた天蓬を制しつつ、やけに機嫌よく悟浄に絡む。 そろそろ八戒は完全に察した。捲簾もまた、本当はこの場面を愉しんでいるのだと。元々そういった性質なのか、この爛れきったシチュエーションが箍を外したのか、それは分からなかったが。 「いつから捲兄、って呼ばなくなったっけか。……すっかりエロい子になっちまってまぁ」 悟浄が避けて座っていた乾き切らない白濁の跡に、また視線が集まる。つい十分ほど前のことに改めて、悟浄の頬がかっと熱くなる。捲簾は勝気そうに笑ったまま、横から内腿を撫で回して独り言のように呟いた。 「……最初に教えたのは俺だったのになー」 低い声音と大腿を滑る捲簾の指が、悟浄の記憶を鮮明に呼び起こす。 捲簾に引き取られて一年ほど経った頃。 少し思春期が遅れていた悟浄に「触り方」を丹念に教えたのは、まっさらな身体に穴を穿ったのは、彼の帰らない夜に満ち足りない悟浄を悶々とさせていたのは、捲簾の指だった。一線こそ越えていないが、悟浄が今『そういうこと』をそれほど抵抗無く受け入れているのは間違いなく多感な時期に行き過ぎた手解きを施した捲簾の所為だ。悟浄は未だに、捲簾がシェイカーを振る手つきや濡れた指を拭ったり舐め上げたりする様に、うっかり昔の快楽が目覚めかける。 「ほら、今もキツそーじゃん? 弄ってやろっか、久々に」 掌が脚の付け根まで及ぶと、悟浄の腰は逃げるように八戒の方へ寄せられる。愛撫にしっかり反応しているその身体に、腕の中の八戒がまたひっそりと機嫌を損ねた。 「っ……捲兄、それはもうナシ……」 「……冗談だって。かわいーなー、お前」 ぎゅ、と頭を軽く抱き寄せられ、悟浄は呆れ顔で溜息をつく。その目が一瞬切なそうに伏せられたのは、三人のうち誰にも見えなかった。悟浄本人すら自覚していなかったかもしれない。 「ちょっと捲簾、いい加減にしてください」 その言葉に応えてか否か、捲簾は悟浄を解放する。が、間髪入れずに八戒の頭に手を伸ばして撫でた。 「悪ィな八戒。ま、犬に噛まれたとでも思って忘れろ」 「へっ、は、はい……」 「……八戒っ」 悟浄が声を発し、後ろから八戒の顔を覗き込んだ。 「なんっでお前、捲兄にだけそーゆー可愛い反応すんの……むかつく」 「ち、違いますよ……単純に明日の勤務から気まずいなあって困惑してるんであって」 「……あっそ」 拗ねた声音でぽつりと零して、悟浄は八戒の唇に指を這わす。と八戒は察したように、もぞもぞと身を動かして向き合った。じっと見上げる翡翠に照れて「あぁもう」と焦れたように呟くと、悟浄は唇を重ねた。捲簾が侵した跡を拭い去ろうと、舌は中側まできっちりと巡る。慣れた感触に八戒は安堵して舌で応えつつ、長い髪を丁寧に梳いて撫でる。 ひと段落つくと、ふ、と二人が同時に笑みをこぼした。 「……浄化完了」 「それギャグですか悟浄だけに」 「ちげーよ」 「――そもそも先にやったのはそっちだろーが」 その間にも捲簾と天蓬の口論は激化していた。ただ捲簾は、どちらかというと呆れている調子だ。 「キスなんてあからさまなことはしてませんっ。ちょっと開発してついでにいかせたぐらいで」 「イヤイヤどーなってんのよお前の倫理的基準は」 「ねぇ、こんな陰湿な嫌がらせより……しないんですか、それなりの『おしおき』」 そんなことを言いながら見上げる天蓬とまともに目が合って、捲簾は一瞬焦った。しつこく腕に絡みつく焦れた身体が、たまらなく熱く感じる。理性が打ち崩されそうになる。しかしここで大人しく流されてしまえばそれこそ天蓬の思う壺なのだ。 「……やーだ。お前は暫く反省してろ。どーしても欲しくて堪んないってんなら勝手に引っ張り出して自分のに挿れとけ」 「……そうさせていただきます」 外した眼鏡を床に放りつつ言うと、天蓬は窮屈な三人掛けのソファーから一度下り、捲簾の足元に屈んだ。跪くよりは跪かれる方が彼の性に合っているが、スイッチが入ってしまえば形振り構わないのもまた天蓬の性である。躊躇いなく捲簾のソレを引きずり出すと、大胆に舐め上げる。暫くその口に含んで吸いつき、少し持ち上がるとすぐに、下を脱ぎつつ対面で跨って焦れたソコに宛がった。 一方で捲簾は、左隣で絡み合ってキスを繰り返す二人のうち、悟浄の項に指を伸ばした。 「っあ……捲簾さん?」 「だいじょーぶ、俺と悟浄は本気になんてなんねーし。な」 「んー……」 キスに耽ってぼうっとしていた悟浄が生返事をすると、彼によく馴染んだ指の感触が首元を擽る。猫の喉を転がすような気ままな指遣い。天蓬の指のような痛く鋭い性感ではなく、懐かしく暖かい快さが悟浄の身体に染み入り、気持ち良さそうに喉が鳴る。 「また、そっちですかッ……」 生白い腿を晒して切なそうに悦がる天蓬の姿が視界に入り、悟浄は思わず唾を飲んだ。性格はかなり違うしウマも合わないようだが、目元や声質なんかは本当に瓜二つなのだ。八戒と身体を擦れ合わせながら、捲簾に喉を撫でられながら、しかし悟浄は天蓬の綺麗な顔が溺れてゆく様に目を奪われる。 「……この見境なし」 「だッ」 八戒が悟浄に覆いかぶさり、その視線を首ごと戻す。両手で顎を掴み、脅すようにぐっと顔を近づけた。 「もぉ……さっきのトコ、頑張れば絶対僕だって届きますからね? ほら、後ろ向きなさい」 「……えっ、交代しねえの」 「してあげませんっ」 渋々悟浄が身を伏せる間、八戒はちらと天蓬の方を見た。 「貴方も……そんな顔をするんですね。飼い主サマの前では」 「飼われてるつもりは、全くありませんけど。お望みとあらばいつでも性生活を語って差し上げ」 「丁重にお断りします」 「俺からも勘弁だわそんなモン。……って八戒、メガネかけたまますんの?」 「あ、外し忘れ……」 かちゃり、と。八戒より先に捲簾の指がフレームを持ち上げたかと思うと、捲簾は奪ったそれを自分の耳に引っ掛け、顔をしかめて片目を瞑った。 「うっわー全ッ然見えねえ、特に右……」 「っ、」 ふいに天蓬が唾を呑み込んだ。思わず捲簾が下を見やると、臍辺りに剥き出しで押し付けられた天蓬のモノが分かりやすく反応している。 「…………え、何、眼鏡?」 「……気付いちゃいましたよ。貴方の眼鏡に弱いです、僕」 「おおっとなんかまたマニアックなプレイが生まれそうだなオイ……」 「後で上からかけさせてください。僕の眼鏡汚してもいいんで……今は、とりあえず」 天蓬は捲簾から眼鏡を手早く外すと、やはり床に放った。 「ってもう、そういう雑な扱いやめてください……」 八戒は組み敷いた悟浄の身体に指を差し入れながら、最早いちいち怒るのも面倒とばかりに溜息をついた。腹いせのように指の力を強める。拡げられて緩くなっている後ろとまた湿りだす前とを見て、八戒は「この絶倫」と呆れて低く囁いた。 仕事中とは打って変わって、男っぽい表情で品のない台詞を吐く八戒の姿に、捲簾はつい気を取られる。そうやって余所見ばかりする彼の気を引こうと、天蓬は繋がったところを動かしながら吐息混じりに強請る。じいと潤んだ瞳で訴え、唇を指で弄んで。 「口さみしい、です」 「煙草は」 「さっき切らしました」 天蓬が目を閉じて唇を寄せると、捲簾はそこに人差し指を滑り込ませた。虚を突かれた天蓬は目を開けて、恨めしそうに捲簾を見る。掻き回された箇所から唾液と吐息が零れる。 「も……けん、れん……意地悪、やめてくださいっ……」 とうとう弱りきった哀切な声で天蓬が鳴くと、捲簾は仕方なさげに唇を重ねた。その間も天蓬は不満げに物足りなさげに、捲簾の首から鎖骨にかけて誘うように指を滑らせる。 「……ちっとは参ったか」 「あぁはいはい反省しました、から……もっと、」 「なーんか気に食わねえ、それ」 「……っ、ホントになんにもしない気なら、今すぐ引っこ抜いて犯し返しますよ……! 貴方だって出したいでしょうが」 「ここまでやってそーゆーこと言うかオマエ……あー、もー」 漸く捲簾が腰を動かして突くようにしてやると、焦がれたその刺激に、はぁ、と力の抜けた息が漏れる。 天蓬は入り込んだらとことんというか、感じ方がやたらめったら派手だ。言うことは悉く強気なのに、激しく突き上げられるほどめちゃくちゃに濡れる。身体が揺らされるたび晒されたモノは粘液をたっぷりと湛えて、時折その雫が腿を濡らす。 見入っていた悟浄が思わずそこに指を伸ばすと、当然あてつけのように後ろから突き立てられた。ひ、と掠れた声が出る。 「ちょっ待っ、俺もう腰キツい……」 「じゃあじっとしててください」 「って無理だろ……ッ、く」 「……ここ、ですか? 動かしますよ」 八戒が奥の奥までどうにか挿し入れた指を、少しずらした。悟浄は懲りずに重くなる下半身をびくつかせて、思わず傍にあった捲簾の腕にしがみつく。 肌を打ちつける音と掻き回すような水音と、上ずった息や声だけが部屋に響く。 どこからとなく迸る体液が蒸れきって澱んだ空気を生み、男臭い、生々しいにおいが各々の鼻を突く。それがまた四人の欲を駆り立てる。真っ黒い革のソファーはしとどに濡れて、上でひしめき合って躍る肢体を引き立てる。 一番早く臨界に近づいたのは天蓬だった。蕩けきって捲簾に預けられていた身はがくがくと震え、肩に縋りついた掌に力が篭る。 「……ぁ、とめ、て、捲簾」 「んっ……なんで」 「い、いっちゃい、ます……っまだ、焦らし……て」 久しい熱に浸りたがる天蓬の我儘に背き、捲簾はシャツに貼りついて暴れているソレを思いきり掴んで急かした。嬌声をあげて膝の上の身体が悶える。天蓬を焦らすこと自体は捲簾も好きだが、本人がして欲しいようにするのではまるでもって「お仕置き」にはならないのだ。意地悪そうな笑みを浮かべ、天蓬の視線をソコに向けさせようとする。 「はッ、ほーら……イきそーよ、天蓬?」 「っひ、んぁ、あッ、も、もぉ……だっ、たら、はやくッ……!」 繋がった熱いところに下からゆっくりと指を這わせ、捲簾は続く言葉を促す。 「……『はやく』、何?」 「っふ……ん、ッ突い、て……いか、せ、て……」 息を詰めた捲簾が中で猛るものを動かすと、我慢の切れたふたりは一緒に果てた。 ソファに這い蹲ってじっくりと嬲られながら悟浄は、何とも言い表せない不思議な感覚に陥っていた。 確かに八戒の声と身体に犯されているのに、すぐ傍ではとんでもないことになっている天蓬が、よく似た声で、似た息遣いで啼いている。普段の声色や喋り方からは違う印象を受けるのに、焦れきってどろどろになってしまえば搾り出されるのは同じように甘い声。天蓬のほうが大分激しくはあるが。そしてそれを意地悪く追い詰めるのは、聴き馴染んだ筈の捲簾の声の中でも、やたらと低くてやらしい、悟浄の知らない音。 誰が誰を甚振っているのか誰に痴態を視姦られているのか分からなくなってゆく空間の中で、快感に素直な悟浄は狂おしいほどの情炎に身を焦がす。しかしそれがずっと続いてほしいような思いに駆られるたび、腰の痛みで一瞬我に返る。この繰り返し。 平常心を保とうと努めていた八戒でさえも、段々と隣の激しいペースに流されてゆく。余裕なく悟浄を抱きつつも、水音に混じる捲簾の声音に背中がぞくぞくし、僅かに後ろが疼く。違う違うと言い聞かせながらも、身体はもう二重の快楽に堕ちるまで幾許もない。 「はぁっ……ん、捲簾……物足りません」 黒いシャツをべたべたに汚したそれを自分で掬い取ると、天蓬はその指で捲簾の頬に触れた。捲簾も捲簾で、誘いに乗って指に絡まる液を舐める。 「交代……も、イイけど」 捲簾はちらりと視線だけを横に投げかけた。察したように天蓬は「捲簾」と警告する。 「もーこの際なんでもいいですけど、僕には常時構っててください。……基本貴方にしか興味ないんで」 「……またすんげー口説き文句な。はいはい、仰せのままに」 女王様にでもするように手の甲に落とされたキスが、「おしおき」の終わりを告げた。 そして捲簾が再び横を向くと、悟浄を後ろから犯す八戒と目が合った。溺れかけていた八戒は思わず我に返り、すっかり落ち着いて自分達を伺っている歳上達に参らされる。 「……あ、あんまり、見ないでください……」 「なぁ、お前ら二回目だっけ。……もーちょっとイケそう?」 「っ……へ?」 「捲簾さん、何……」 楽しいコトは皆で、ってな。 捲簾は含みのある低い声でそう言って、繋がったまま微睡んでいた天蓬の腰を持ち上げた。ぴく、とその腰が寂しげに揺れて、中から引き抜かれた棒は粘り気のある糸を引く。二人を繋ぐそれがぷつりと切れたとき、新しく結ばれる糸は果たして何色か。 窮屈な舞台上に押し込まれた身体に、窓から射し込む誰そ彼時の夕陽が絡みつく。やがては布切れが床に散乱し、重なり合う肌の色が肢体の境界を更に暈してゆき。 ゆっくりと、長い長い夜の帳が下りる。 2013-03-07 |